「崇弥、文登、〇〇ある?」
「なーい!」
重度の知的障害をともなう自閉症の兄が、腹を抱えて笑った。
あの毎日繰り返された子供時代の光景が、いまも脳裏に焼き付いている。
そして、あのときの感情に今日もこだわり続けている。
何がそんなに可笑しいのか、実の弟である私たち双子にすら分からない。
34年間、共に生きてきたのに、なお分からない。
けれど、確かなことがひとつある。
兄は、この上なく幸せそうに笑っていたこと。
りんごの皮を丁寧に剥き進めると、最後にあらわれる果実のように、
その景色はあまりにも澄み切っていて、時間ごと美そのものだった。
私は、その感情に触れられたことを、その感情を肌で知っていることを、誇りに思っている。
世界最高峰の美の祭典「パリ・ファッションウィーク」。
アンリアレイジ・森永邦彦氏の衣服、元ダフトパンクのトーマ・バンガルテル氏の音楽の創造によって、
知的障害のある作家たちの作品が、ランウェイに確かに放たれた。
人は、いったいこれからの未来に、何を「美しい」と感じるのだろうか。
人類が探し続けてきた「美」の真実が、「♡」に宿っていると確信する。